前回の対談第3回はこちら

株式会社サンエルの代表取締役社長 辻橋 英延氏 を迎えて
始まった新企画「社長対談」。

過去の経験と思いをたどりながら、互いの今を紐解く全5回の対談です。

第4回では、桐井社長が今考えている
「これまで」と「これから」、そして
互いの経営者としてのありかたが語られます。

あの格言は当たってる

桐井
僕、中学校のときに洗礼式も受けてるんです。
一応、今もクリスチャンなんですよ。
それは言いにくくて、母親の葬式まで、よう言わんかったんですよ。
“あいつはクリスチャン”って、“あんなもんがクリスチャン”って
言われるのが、キリスト教の人たち、
敬虔なるクリスチャンに対して申し訳ないなっていうのがあって。
ところが母親の葬式を教会でやったもんで、ばれちゃって。そこからは。

辻橋
だいぶ隠しましたね。40年ぐらいですか。

桐井
隠した。従業員っていうか、スタッフに言われたことがある。
“隠れクリスチャン”ですねって 笑。

でもキリスト教って結構、僕の中で根付いてますよ。
“神の国に富をたくわえなさい”っていうのがあって。
この生きてる世の中で、そんなに富を蓄えたところで、
死んだら終わりやっていうことを、そうだよなって自然に思いますし。

母親が死ぬ前に、おもしろいことを言ったんです、病院で。

「きょうだい3人おるやろ、正直に言うわ。
私、あと長くない。あと1カ月持たん。
正直に言う、あんたをなんで褒めてこなかったか、なんで怒り続けたか、
きょうだい3人の中で、私一度も褒めたことない。
なんでやって。期待か?違う。
褒めたらそれで満足してしもうて、
次が行けない子って分かっとったから、だから怒り続けたんや。」

二つ目、
「きょうだい3人おるよな。
おにぎりが一つしかない貧しい頃の、子どもの頃に、
“おにぎりが1個しかないんさ”って言ったら、
姉はじっと何も言わんと我慢する子やな。
弟は、おかあちゃん半分ずつしようって言う子やよな。」

俺は…「“自分で全部食べる”って言うんじゃねえだろうな」
って言うたんですよ。本当にそう言うんかと思って。
“あんた私にくれやんと、全部食べてしまう子やったよな”って
言うんかな、みたいな。でも逆で、
「あんたは自分がどんなにおなか空いとっても、
今食べてきたから、おなかいっぱいやから、
お母ちゃん全部食べな”って言うんがあんた
や。
私、それ分かっとったから、出来損ないでもかわいかったんや」
って。

辻橋
お話聞いてると、一番目をかけられてたというか。

桐井
出来が悪いからやね、それ。あの格言は当たってる。
出来の悪い子ほどかわいいっていうのは、当たってる。
僕は出来悪かったもん。

辻橋
ただ、私はお母さまが一番経営学をたたき込んだのは、
桐井社長だったんじゃないかなって。
今お話を聞いてですけどね。

桐井
うちの母親は桐井の直系で、うちの父は養子なんです。
母はどうしても男の子が欲しかった。
最初が女の子やった。次、僕が生まれた。
待望の男子出産っていうことで、母はすごくうれしかったらしくて、
僕に対してものすごく期待をしたんですよ。
“桐井の家はもっと大きかったのに、駄目になったよな、
だから、あんたの力で何とか再建してほしいんや”、みたいな。
結構、子どものときからものすごい期待をかけられて、
それが重たくて、すごい苦しんだ覚えがあるんですよ。
だから、自分の思いと僕が重なったんちゃうんかな。
その割には出来損ないやし、期待外れやろうなみたいな。

辻橋
どうなんでしょうね。一番目をかけたっていうところで、
本当に期待外れだと思ってたら弟にいってるはずなんで。
多分、努力できる才能がある人間やと見抜かれてたんじゃないですかね。

桐井
昨日も会社で言ってたんですけど、
7年近く前に母を亡くして、3年半前に、うちのやつを亡くして、
おやじも元気ないし。
一つの方向に心合わして努力してた、あの頃が懐かしいな。
一瞬でいいから、あのときに戻ってみたいなというのは、最近ものすごく強くて。
みんながおらんようになってきて、
逆にスタッフが今、すごく育ってきてくれてる子もいるし、
それはそれでいいことではあるとは思うんですけど、
僕はどの時代に戻りたいっていうたら、みんなで同じ方向向いて、
共に戦ってたあのときがすごく懐かしくて、戻りたいな。
この話すると、あかんのよ。涙ぐむのよ。
戻れへんって分かっとるもんで。

けど今、僕を支えてくれるスタッフもたくさんいるんで、
それはそれで感謝せないかんかなと。
僕、最近、本当に感謝っていうのをしてますよ、スタッフにも
それから朝起きて命あったなっていう感謝をしてるし。

辻橋
感謝、いい言葉ですよね。本当に社長のお人柄を表してますし、
あの頃に帰りたいっていうのは、
それだけ素晴らしい伴侶であり、親御さんでありっていう中で、
今、社長が示されてる次のスタッフたちが育ってきてるっていうところと、
本当にいい時代を生きられて、そして未来を見られてる社長っていうところと。

会社経営者は非情じゃなくてはならんっていうけど

桐井
今、何を目指すのかって言われると、
これっていうのが言えないのが悔しいなってなるんですけど。
でもその代わり、1日1日の大切さ、
大切な瞬間っていうのを外さない
っていうのは、すごく意識してますよね。
若いときっていうのは、1年がすごく長くて、1日が一番短い。
年いくと、1年がすごく短くて、1日が長いっていうか。
これ、僕の経験上そうなんですよね。
でも僕、そのどちらにも入らなくて、
1年も短いし、1日も短いよなみたいな。
起きるのは7時ぐらいですけど、寝るのは4時ぐらいが、
ずっと365日続くわけじゃないですか。
この話、こうくると、次に相手に言われること一つなんですよ。
“そんなに飲み歩いて大丈夫なん。”
「違うだろ、僕は仕事してるの!」って。

辻橋
そこは私も、飲み歩いてるイメージがないので。
桐井社長って不思議な人なんですよ。
結構、職人気質なはずなのに、経営眼も持ってるんですよ。
職人肌の社長は、もっと職人に寄るんですよ。
でも桐井社長、分析もするし、マネジメントもするし、
会社経営っていうところも見に行くから、
結構不思議なバランスだなっていう。

桐井
僕、毎日つけてるのは最高温度なんですよ。
特に春の走りっていうのは拾いますよね。
うちの営業なんかもよく言うんですよ。
「社長、去年のこの辺りって、すごく売れてるんですけど、
こっから売れますよね」と。
去年の企画って拾い出したんか?去年どんなことをやって、
今年どんなことをやってるっていうことをすり合わせんと、
去年の数字みたいなもんは、なんの役にも立たんやろ、みたいな。

辻橋
その毎日つけられてる温度ですとか、企画とかって、
誰かに伝授ってされていってます?

桐井
してないです。これは教えてかなあかんね。
ただコロナになってから、去年とか一昨年のデータが
全く役に立たないんですよ。それは空気感でしかないっていうか。
データに基づいては、やってはいるんですけど、
そのデータを100パーセントスライドして、
今期に持ってくる考え、全くないですね。それは単なる参考程度。

辻橋
社長が試行錯誤されてるところも含めて、伝授していく。
ただ、それは1年、2年では…

桐井
できない。

辻橋
多分、社長のデータだけじゃなくて、
データを基に分析していくという行程、桐井社長のルーティンというか、
仕組みづくりを伝授していくの、すごく時間かかると思うんですよ。

桐井
Sさんのスタッフブログ2枚目ってすごく面白いくだりがあって。
“社長って何なんだ、腹立つし、頭にくる。”
そんなこと書くかっていう 笑

その中で面白いくだりがあって。僕、うなったところが。
“考えなしに報告すると地雷を踏むから気を付けよう”
っていうのがあったんですね。
考えなしに報告するっていうのは駄目っていうことを、
これに気が付いてくれると、この人はもっと成長するよなって。
話をまとめて報告っていうのは大事だよな、みたいな。
ああいうの文章で見ると、今の立ち位置、
今の状態っていうのが手に取るように分かるんですよ。
確かにデータっていうのも経営的には大事なんですけど、
スタッフも本当にたくさんいますから、今それぞれが何を考えて、
どういう状態で仕事に取り組んでるかっていうのを把握するのも、
データ化の一つですよね。

辻橋
おっしゃるとおりです。

桐井
モチベーションが下がったら、
なんで下がってるんやみたいなところまで追いかけてやることが
優しさじゃないんかなと。
だから
「会社経営者は非情じゃなくてはならん、
優しかったらやれやん」とかっていうけど、僕、違うと思う
んよね。
その状態を分かってやれることが優しさやと思いますね、僕。
分かってやろうと思ってるんです。
そこでまた絆ができるといいよな、って。
もちろん要望とかお願いに、全部応えれるわけじゃないんで、
応えられなければ、
「応えられないけど、こういうふうにしてくから、こうお願いね」
っていう話もできるし。

辻橋
社長の30センチ定規論にも、すごく、なるほどと思ったんですけど。
要望だけ聞いても駄目ですし。
バランスも本当に難しい。私もゼロ、100って昔あって、
厳しくしようと思ってたときもあったんですが、
私、性格上あんまり厳しく言うのが苦手なもので、
あえて厳しく振っとったんですけど、バランス大事だなと思って。
「この辺のバランスいいな」と思ったら、
またさらにいいバランスがあったりとか。
しかもそれが、また変わったりするんで、そこ非常に難しいなって。

桐井
僕は辻橋社長と、こうやって仲良くさしてもらったのは、
仕事への取り組みがよく似てるからですよね。
真剣に、お互い仕事させてもらってるじゃないですか。

辻橋
はい、私も、桐井社長にそう言っていただくの、
すごくありがたいんですけど、
私、仕事が仕事としてちゃんと、自分の中に下りてきたのは
本当、ここ5~6年かって思うところもあるんですよ。
今までも、もちろん一生懸命、
そのときそのときは自分で一生懸命やっとったんですよ。
ただ、社長の言うような、
自分の意思を持って、こうしたいからこうで、
自分であったらこうかっていうところを
アプローチできてなかったなって、最近思います。

桐井
そこだけはちょっと違うかな。
僕は、仕事は基本的にやらされてる感は全くなくて、
子どものときから。仕事が楽しいんですよ。
どんだけ山に登っても、次の山はもっと高いのが待っていると。
その山に登っても、もっと高い山があるやんみたいな、
この繰り返しで、結構、面白かったし楽しかったですね。

でも今、その山が見つからないっていう、
自分に対するジレンマみたいなのが、
今、考えてやっているんですけど。

辻橋
社長の言われる、山が見えないっていうのは、
すごく表現として、社長がご自身で、
このマーケットも含めて捉えられてるなと思って。

冒頭でもお話ししたとおり、
今までの山の登り方でいいでしょっていう人、本当に多いんですよ。
山が見つからないっていう感覚を持たれてる人、少ないんですよ。

われわれも分からないんですよ、正直正解が。
その中で私たちができることと、桐井社長のいろんな視点を合わせて
今、きりい挑戦プロジェクトというチーム名で取り組んでいますが、
われわれも挑戦なんですよ。

クリーニング屋の価値って何なのか

桐井
うちもセール多いですけど、それは二つ思いがありますね。
今、経済的にきついっていう感じに、世の中なってますから、
ちょっとでもお得な価格でご案内できたらな、という思いと、
これは誰にも言っていないんですけど、本当に誰にも言ってない。
きょう初めて言います、言いたくないことやったんで。
セールでしか売れんうちって、定価では価値がないんかな
っていうふうに、自分自身に戒めてることで、
本当に価値があれば、どんなときでも来ていただけると。
安くないと行きたくないっていうのは、そんだけの価値しかない。

じゃあ価値って何なのか。
それは、僕はクリーニング屋においては、総合的なものだと思う。
プライスのことは一番大きいとは思うんですね。
値段がいくらか、それから工場の仕事で言えば、
シミが落ちてるかとか、きっちりした仕上がりができている、それも一つ。
納期っていうのも一つ。
季節の間、預かっていただけるのかっていう、そういう利便性も一つ。
もうひとつ、一番大事なのは、ショップの中の空気感
この場所に来てよかったとか、
このショップはいい感じだよねって思っていただける肌感覚の
部分っていうのは本当にちゃんとなってるの
とか、
ここら辺見直す必要があるんじゃないのと。
その辺含めて2月中にてこ入れするとこは、てこ入れして、
総合的なバランスの中で、
もう一回させてもらおうかなっていうんが、今のうちの会社なんです。
だから、何が駄目でも駄目やし、
全てが整った状態に持ってかないと、
お客さんというのはご満足していただけないんかな
と。
うちのスタッフにも、3月、営業会議やるつもりなんですけど、
うちは販売業じゃないよと。生産業でもない、
何なんだっていうと、お客さんの大事な財産を預からしていただいて、
加工してお渡しするっっていうこと忘れてるんじゃないの、みたいな。
これはお客さんからお預かりした大切な商品、お洋服。
っていうのを、もう一回原点に立ち返って、
みんなが、自分の商品のように思いを込めて、
全てのスタッフが仕事させていただかないと…っていうのが、
僕の今の思いですね。

辻橋
きりい様の価値を感じていただけるお客様を増やしていくというのが、
今のところ、われわれが目指してる方向だと思っていて。
「きりいさんじゃないと嫌だよね」っていうお客様を
増やしていきたい
んですよ。
手段としてセール、割引ももちろん日々の中では必要なものだと思うんですよ。
われわれの役目は、桐井社長が「おなじクリーニング店でも転職できない」と
おっしゃったような中にある、
クリーニングのきりいの良さ
を伝えていくことだと思っていますし、
もちろんそれは一緒につくっていくウィズの挑戦プロジェクトだと思ってます。

重要なのは伝え切ること

桐井
僕も辻橋社長とお知り合いになれたことは、非常に大きなことで。
今、一緒に取り組んでいただいてることがなければ、
厳しい状態になってたやろうなっていうのは、ものすごく感じてて。
LINEも、おかげさまで非常に充実してきて、
LINE会員数のほうも、皆さん入っていただいて、本当にありがたいなと。
これだけの会員数の方の期待に応えないかんっていうのは、
結構、僕自身、しょうもないブログは書いてるんですけど、
ずしっと思いを受け止めて、今、生きてる状態ですね。
LINEも面白くて、僕も最初はアップしてもらってたように、
今、結構忙しいんですよ。
店のポスターとLINEのデザインを変えたりすると、
それだけでも手間がかかるんですけど。

辻橋
社長がポスター作ってる会社、あんま見たことないですしね。
三重県内に対しての事業をやっていこうっていって、
いろんな会社さまを回っていくときに、
Illustrator(イラストレーター、デザインソフトのこと)をさわれる社長って、
桐井さんしか会ったことない。

店頭に貼り出されるポスターやLINEで配信されるセール情報のポスターは、桐井社長が自らIllustratorというデザインソフトを使用し作成している。

桐井
きれいなポスターとか版下って、誰でも作れるんですよ。
デザイン屋に任しても、きれいなん作ってきますよ、上手なんを。
しかし、見る方がどう思ってっていうところに
視点を置いて作られる方って少ない
んですよね。

辻橋
そのとおりですね。

桐井
いわゆる、うちなんかでも大型マーケットの店もあれば、
中規模スーパーもあるじゃないですか。
そうすると、壁の色なんかとか、背景が違うんですよ。
そうすると、この色が絶対目立たないよなとか、
こういうデザインのほうが絶対目立つよな、
そうするとお客さんは、こう見ていただけるんじゃないかって、
考えながら作ってて。これは、感覚は教えようがない。

辻橋
ですし、社長の話、社長がもしクリーニングやってなかったら、
デザイナーかなと思ってたんですよ。
ただ、それも違ったなって今、思っていて。

桐井
違う。

辻橋
社長は、社長として気になるポイントがデザインに出てるだけで。

桐井
これだけは外せないという。

辻橋
社長の言葉もデザインも乗ってるんですよね。
思いとか、こうしたいっていうのが。

桐井
伝えることが大事なんじゃなくて、
重要なのは伝え切ることですよ。
僕がいつも管理職に言うのは、
難しいことを簡単に。簡単なことを難しい言葉で説明するのは論外。
難しいことを簡単に言うぐらい、難しいことないよっていう。

辻橋
おっしゃるとおりですね。

桐井
「言葉が多くなればなるほど、分からなくなる」って、
これだけは指導してます。
ごちゃごちゃ言うたらいかん、簡単で、シンプルでいいって。
指示と、指示の内容だけ、狙いだけ言えばいい。

辻橋
それが一番難しいところですね。

桐井
難しいみたいなんです。簡単に言うのは難しいみたいなんです。
でも、これ訓練ですよ

辻橋
週1、リーダー会議っていうのをやってるんですよ。
各開発部、推進部とか、いろんな部の。
この前、四半期が終わったので、
それぞれ自分の部署の話をしようっていったときに、
それまでの積み重ねからすると、すごいいいことしとった部署のリーダーも、
ちゃんと報告できないんですよ、それをまとめて。
あれ?と思って、これ、こういうことだよね、
こういう状態でこうなってるはずやのに、そこの報告ないのはなんで?
って、最初、私、理解してないのかなと思ったんですよ。
でも社長の言われる話を聞いて、さらに思ったのが、興味なのかな。
興味で、それを考えてたら、それは言葉にできるのかなっていうのが、今、仮説で。

桐井
興味。

辻橋
興味かなって。社長のデザインもそうだし、文章もそうだし。

<第5回へつづく>


クリーニング屋の価値は総合的なもので、全体のバランスを見直したいと語った桐井社長。
サンエル・きりいの「きりい挑戦プロジェクト」としても、顧客体験の向上につながる
取り組みをしていきたい、と再認識した第4回でした。次回が最終回です!

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